「自由」について(1):鳥乙女は沈没船の夢を見るか?

古今東西の賢人たちが「自由」という言葉について考えてきたから、この言葉について語るのはすごく大変なこと。それでもやっぱりどこかから始めなければならないと思うのです。なにせこの言葉ほど悪用されている言葉もないからね。まことしやかな嘘や完全な事実誤認を、差別的言辞を、他者の存在を否定するあらゆる言葉を、「言論の自由」を振りかざして垂れ流している連中を見ると本当にそう思うのです。

 

問題が大きくて手に負えない感に駆られるときには、「手持ちのものから始めること。その際に、周りをきょろきょろ見ないこと」。「自由」という語を考えるときに僕の脳裏にまず浮かぶのは、繰り返し繰り返しやったゲーム。大人になった今でも時おりPS2を引っ張り出してその世界を歩き回りたくなるような作品。『聖剣伝説LEGEND OF MANA』(1999年スクウェア。以下LOM)がそれです。

 

 

このゲームは幾つもの短編ストーリーで編まれているのだけど、そのなかに鳥乙女(セイレーン)たちの物語があります。ホメロス『オデュッセイア』に出てくるような、「自分に近付く人間はこれを悉く惑わす」恐ろしい海の怪物としてのセイレーン像とは異なり、LOMの善良なセイレーンたちが歌うのはそれが彼女らにとっての自然であり掟だからであり、そうしなければ生花でできた彼女たちの羽は枯れてしまうのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

それで彼女たちは人間が船を海に浮かべてからというもの、歌う「自由」と船を沈めてしまうのではないかという「恐怖」とで板挟みになり、葛藤することになります。船を沈めてしまった一人のセイレーンは人間に迫害されて、自責の念から幽閉の身に甘んじ、鳥カゴの中から友人とこんな言葉を交わすのです。

 

「私たちが自由に歌っただけで沈んじゃうような船なんて、全部沈めてしまおうよ!今の世界なんて、リフジンくんだわ。」

「私も本当は、ほんの少し、わかってる。だけど、怖いの。追手に追われて、敵と戦って、命がけで求める自由って何?」

「私は私であるために生まれて来たの。それが、自由。」

 

初プレイ時に小学生だった僕は考えこんでしまったのでした。確かに船を沈めるのはマズい。でも彼女たちは歌うことが自然な在り方で、しかも後から海に来たのは人間のほうだ。「船が沈むから歌うな!」というのは結局人間の側に肩入れすることにしかならない(しかも作中のこの人間たちというのがまたガラの悪い、嫌な感じの奴らなのです)。「秩序」というのは結局、誰かにとっての「秩序」であるにすぎないとしたら、そのために別の誰かの「自由」を奪う権利など誰にあるというのだろう?

 

これは別にゲームのなかでなくとも、人間と人間のあいだにだってよくあること。学校のクラスにおける「秩序」のことを考えてみるとよくわかる。「スクールカースト」なんていうクダラナイものは、クラスで強い者がその立場を正当化するための「秩序」でしかない。誰かを虐げ、排除し、屈服させることで成り立つような「秩序」なら、セイレーンたちの言う通りそんなものは「リフジンくん」で、ブチ壊してやったって文句を言われる筋合いはないのです。

 

「自由」と「秩序」とはしばしば衝突する価値で、特に日本人の場合には、「自由」を押し殺してでも「秩序」を優先させる傾向が結構強いです。でも鳥乙女の物語から分かるように、「秩序」はしばしば「強い者の自由」と同義のものです。その意味での「秩序」に対して虐げられた側が闘いを挑むときにはじめて、「自由」という語に本当の強さが宿ると思うのです。

 

だから「自由」という語を誰かが用いているときには、その人が強い立場から別の誰かを打ち拉ごうとしているのか、それとも弱い立場から真っ当な扱いを求めているのか、それを必ず合わせて考えなければならない。トランプサポーターのような連中が「マスクをしない自由」などと抜かすのは、「自由」の名に値しません。なぜなら彼らはそれで命を落とすかもしれない人や医療従事者の負担のことを考えてもみないから。差別主義者が「言論の自由」を振りかざしてヘイトを垂れ流すのは、「自由」の名に値しません。なぜなら彼らは強い者の側から黒人やいわゆる「在日朝鮮人」を標的にするのだから。「自由」ってのは「何をしてもいい」ってことでは絶対にない。少なくともそういう意味での「自由」には大した価値はない。

 

LOMの物語に戻るのなら、鳥乙女と人間が互いの存在を認めて、互いに納得できるような取り決めをしたときに初めて、「秩序」は「強い者の自由」であることを止めるのでしょう。この作品でそこまでは描かれなかったけれど、それでも僕に物事を考えるための一つの指針をくれた、大事な作品だったのでした。鳥乙女たちが「自由」であれるよう、そして僕たちもまた「自由」であれるよう、プレイする度に祈るのです。

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